|
魚人アーロンを考える Ver.2.05 アーロンさんはイーストブルーで最悪の海賊という設定上、物語全体から見ても重要な位置を占めるキャラクターです。序盤から引っ張ってきたナミの素性に関する伏線(初出はなんと第9話!)が解き明かされ、グランドラインや七武海という次の高みへと動き出す転機となったアーロンパーク編はまさに第一幕終了という印象を受けます。ここでは魚人アーロンというキャラクターについて詳しく考えてみたいと思います。 ■魚人とは? そもそも魚人という種族についてはまだ不明な点が多いのですが、その主な特徴は環境に応じて肺呼吸とエラ呼吸を切り替えられること、人間の約10倍の力を持つことなどです。下等な人間は魚人に支配されるべきだする種族主義にはかなり思想的な部分がありますが、客観的に見て魚人の身体能力が人間よりも優れているというのはまぎれもない事実です。能力者と互角に戦える力を持ちながらこれといった弱点もありません。「脳みその出来が違う」というナミの言葉の真偽は定かではありませんが、少なくとも人間と同程度の知能を持っていることも確かです。 しいて短所を挙げるなら体の大型化や水かきを獲得したことによる弊害はあるかもしれません。力仕事は得意でも手先を使うような細かい作業は不得手だと思われます。精密な海図を描ける人材がいなかったのもそのためかもしれません。 ※この仮説は精密な船を作れるトムさんの登場で否定されました。どうやら魚人に弱点はないようです(笑) また彼らは水中に適応したという割には特に水の抵抗を減らすような体型はしていません。現在も進化の途中と考えることもできますが、あえて水中だけに特化せず陸上で活動するための身体能力を残したためとも考えられます。陸での動きは人間に劣らず、かつ水中でも活動できる。これこそが魚人という種の最大の強みです。 ■アーロンさんの性格 … 原作とアニメは微妙に違う? 一般的に魚人は仲間意識が強いというイメージがありますが、アーロンさん個人の性格について言えば強気でプライドが高く、自分の信念に一片の迷いも持っていないという点が挙げられます。人間を下等だとしながらも海軍やナミを相手に取り引きをしたり、物事を金で解決したりといった打算的な一面も持っています。ただ、そういう計算高さを見せる一方でしばしば感情に流され後先考えずに行動するのも特徴的です。 作中で描かれる機会はありませんでしたが、「人間は嫌いだが女は別」というセリフからかなりの女好きというのが定説になっています。このセリフは少々問題ありと判断されたようで、残念ながらアニメではカットされてしまいました。また種族主義からくる残虐行為にも問題があったらしく、ベルメールさんを撃つシーンなどは頭ではなく胸を撃つ形に変更されました。自主規制が入ってしまうほど豪快な性格なのです。 ■意外に低い知名度 「個人の実力では首領クリークを凌ぐ」(ヨサク談)というアーロンさんですが、実際はクリークが東の海の覇者を名乗り、一般的にもクリーク艦隊がイーストブルーで最強最悪だと認識されていました。この理由としては、まずクリーク艦隊の規模が他の海賊団に比べて大きかったこと、最も派手に略奪行為を行っていたことなどが考えられます。アーロン一味はひとつの島で8年間も力を蓄えていたため、他の海域では被害の認識はほとんど無かったはずです。「一時期はおとなしく影をひそめていた」というヨサクの言葉からも派手な行動を控えていたことが分かります。アーロンさんのことですから、さらに海兵に賄賂を渡して悪事が明るみに出ないような工作もしていたことでしょう。 おそらく海図の準備ができるまで動き出すつもりのなかったアーロンさんは情報の重要性を十分に認識していたといえます。数と力でグランドラインに挑んで失敗したクリークとは一味違いますね。 また七武海であるジンベエとかつて肩を並べた程のアーロンさんの懸賞金は2000万ベリー。この額はグランドラインに入ってから登場した海賊に比べるとかなり低いです。ベラミーどころかサーキースよりも低い!これについては、単純に賞金額=強さではないことを理解しなければいけません。もちろん先に書いた悪事のもみ消し工作もアーロンさんの懸賞金額を低くとどめていた原因だと思われます。 ■アーロンさんの野望 アーロンさんの最終的な目的は自らイーストブルーを支配するアーロン帝国を建国することです。8年続いたココヤシ村の支配もそのための布石に過ぎません。アーロンパークを拠点に力を蓄えてから本格的に覇権に乗り出していく長期計画だったと思われます。準備に8年もの歳月を費やした理由は、おそらく近海の地形を全て把握して戦略上の優位を確立してから動き出そうと考えていたからでしょう。資金はともかく、海図に関してはどうしてもナミの作業速度に左右されてしまいます。野望実現のためにはナミの存在が欠かせないとはいえ、彼女がしばしば「ビジネス」のため島を離れるのを認めていたことも計画を遅らせた一因ではないでしょうか。 興味深いのは、アーロンさんは「魚人の国家を建国する」と言ってはいますが、実際はそれを「魚人帝国」などではなく「アーロン帝国」と呼んでいる点です。ここに彼の真意が現れているように思います。そもそもアーロンさんはジンベエがイーストブルーに解き放った(ヨサク談)ということですが、アーロンさんがジンベエの意思を受けて行動しているという証拠は今のところありません。野望のために自ら離反した可能性も十分考えられるのです。 当初は全ての魚人が人間を見下していると思われていましたが、最近はカポーティやトムさんのように人間と仲の良い魚人も見られるようになってきました。「種族主義」を唱えて国家の建設を目指すアーロン一味が魚人の中でも少数派・過激な一派であり、自ら魚人海賊団を抜けた可能性も出てきています。 ■統治上の問題 アーロンさんの統治は人間を下等だとする種族主義に基いたものですが、人間を滅ぼすわけではなく、あくまで魚人の管理下で生かすという点に特徴があります。商業活動などある程度の自由は認め、そこから奉貢と称した上納金を集めます。 ただしこの支配体制が優れているかと言えば決して問題が無いわけではなく、特に被支配層の理解を得ようとせずに力で押さえつける統治は遅かれ早かれ破綻をきたしていた可能性が高いです。クロコダイルのように少なくとも表面上は民の支持を得る努力をするべきでしたし、その点ではクロコダイルの方が大衆を操る術に長けていた、つまり君主の器だったと言えるでしょう。 アーロンさんは人間を容易に飼いならせると考えていたようですが、「減ったらまた増やせばいい」という理屈で扱えるほど人間は単純ではありません。感情的になって安易に殺したり資金源である町を潰したりするのも得策ではありませんでした。結局、アーロンさんの統治は十分に先を見据えて時間をかけたものではありましたが、独裁制を敷くにはあまりにも彼自身の直情的な性格がそぐわなかったということに尽きると思います。 ■タトゥーの謎 アーロン一味のメンバーは体に様々なタトゥーを彫っていますが、どうやら一味のシンボルであるノコギリザメのマークは幹部以上の地位にある者しか彫ることが許されていないようです。ただしクロオビやはっちゃんの体には確認できないので、幹部だからといって必ず彫るわけでもないようです。逆に、はっちゃんのおでこにある太陽をかたどったようなタトゥーは他の魚人にも見られるので幹部専用というわけではなさそうです。 ノコギリザメのマークがアーロン一味のシンボルであることはまず間違いありませんが、太陽マークについては一味が独立する以前から彫っていた魚人海賊団のシンボルではないでしょうか。この考えを裏付けるように扉絵連載「はっちゃんの海底散歩」に登場した魚人・マクロの体にも太陽のタトゥーが確認できます。 ちなみに、他民族を迫害するというアーロンさんの行動はアドルフ・ヒトラーを連想させますが、一味の中にハーケンクロイツのタトゥーを彫っている魚人(第8巻P152・4コマ目、第10巻P19・1コマ目)がいることは意味深です。卍(まんじ)ではなくあえて逆回りの鉤十字になっているところに作者の意図が感じられます。 ■「元ネタ」について アーロンさんが使う巨大なノコギリ「キリバチ」はキリバス(Kiribati)諸島に伝わるテブテジュ(tebutje)という武器に何らかの縁を持つと思われます。テブテジュは木製の刀身に無数の鮫の歯を取り付けた珍しい武器で、その形には短剣・直刀・曲刀など様々なバリエーションがあります。
「Kiribati」という国名は現在では現地の発音に習い「キリバス」と呼ばれていますが、かつてはそのものずばりキリバチと表記されていました。おそらく尾田先生は「キリバチ」という名前をその語感から「斬り」バチと読み替えて武器の名前にしたのではないでしょうか。ワンピースにはダジャレや語路合わせなど、言葉遊びが多く見られるので可能性は高いと思います。 また尾田先生が昔見ていたというアニメ『小さなバイキング ビッケ』にはしばしばノコギリザメが登場していたそうです。先生も自身の海賊好きの原点が「ビッケ」にあると書いていますが、ノコギリザメを擬人化したアーロンさんというキャラクターもここに着想を得ていることはほぼ間違いないと思われます。この作品には巨人やクジラ、雪と氷の島などが登場したりとワンピースの内容そのものに多大な影響を与えているようです。 スペシャルサンクス: 綱川 鮫濫さん |